現在、PTSDはこれから述べるような二つの症状にまとめられています。

ひとつは、「侵入性反応」と呼ばれるもので、過剰な活動性がその特徴です。
もうひとつは、「感情鈍麻性反応」と呼ばれるもので、精神活動が萎縮し、鈍麻してしまうという反応です。
イメージ画像 チューリップ

◆侵入性反応

こちらの方がはっきりしてい解りやすい反応です。

「何かやっていなくてはいられない」という過剰に昂ぶった状態で、トラウマとなった事件の後は興奮が続いてよく眠れません。

このためにアルコール乱用や薬物乱用な様々な嗜癖(有害な習慣)にはまってしまう人も出てきます。「怒りの爆発」もこの状態の時によく見られます。
それから、驚愕反応やパニックがあります。ベトナム戦争から帰還した人がヘリコプターの音を聞いただけでその場から逃げ出そうとしたり、エレベーターの中でレイプされた経験を持つ女性が、エレベーターの前で立ちすくんだりという形で現れます。

 また、とても嫌な、思い出したくない記憶が何も関係のない場面で、例えば静かに読書している時などに、フッと意識の中に侵入してくる「侵入性回想」ということが起こります。それが夢に出てくると、これは悪夢になります。そうした回想が、事件当時に感じた恐怖や冷や汗などの生理反応と一緒になって、そのままよみがえってきて体験されることを「フラッシュ・バック」と言います。
 フラッシュ・バックに入ると、冷や汗、寒気、鳥肌などの生理反応が逆に当時の記憶をまざまざと再現させることになって、生々しくその状況に引き込まれていくわけです。こんなことが何度も何度も繰り返されたら、まともに生きていけなくなります。

もっと困るのは、「トラウマの再演」とか「再演技化(リイナクトメント)」と呼ばれるものです。イナクトというのは、「劇を上演する」という意味です。演じるというと、故意にやっているようですが、これは無意識に演じてしまうのです。例えば、性的虐待を受けた人が、後の人生の中で、自分をもう一度、性被害に遭うような状況に持って行ってしまう。性的虐待を受けた人が売春に走る場合が多いというのも、このことで説明されます。

 また、ベトナム戦争から帰還した人が、帰国後に殺人を繰り返したり、他国の軍隊に雇われて戦争に参加し続けたりするという場合もあります。自分ではコントロールできなかった状況での心の傷を、自分のみを同じ状況に置くことによって再現し、それによってその状況を自分の意思と力で今度こそ支配しようとする試みと解釈されています。

このことはフロイトが既に、「反復脅迫」という概念で説明していますが、このフロイトの気付きが、もう一度PTSDの問題を解してより深く理解されるようになるのではないかと思います。フロイトはそれを「抑圧されたものの回帰」と呼んでいます。もともと心理的な防衛のために自分の意識から排除されていたのに、ストレスが本人にとってあまりに強かったので、その抑圧されたものがまた「こんにちは」と戻ってきてしまうのです。

◆感情鈍麻性反応

もうひとつのPTSDの症状は感情鈍麻性反応ですが、むしろこちらの方が重大と言えるかも知れません。

 例えば、強姦の被害にあった人が、それから五年後にも無気力で憂鬱であったとします。しかし、不安やパニック・悪夢などは最初の半年で治まってしまっていたとすると、事件の影響はその半年のうちに収まっていて、後に残った無気力や憂うつは、その人のもともとの病気であったと解釈されしまうことになりがちです。
しかし、驚愕反応や悪夢などがなくなり、本人が表面上は平穏で落ち着いているように見えたとしても、よく観察すると事件以来、深刻な人格変化が生じているという場合があるのです。震えたり、汗をかいたり、毛が逆立つ等の派手な症状は消えたけれど、人間関係において、深いところでの情緒的な関係を避けてしまって、ひとりになりがちになるということがよく見られます。

「友人との関係をうっとうしく感じるようになるとか、配偶者との関係も以前ほど親密なものでなくなるとか…」
災難症候群の特徴を書いた図
Krystal,H.:Massove PsychicTrauma./1968
上図補足↓
1:以前なら「私寂しいの」と言ったり、「ああしてよ、こうしてよ」と遠慮なく自分の要求を表現することができたのに、それが出来なくなってしまう。孤立化ということでもある。
3:体のどこかがいつも具合が悪いという状態
4:情緒的に麻酔をかけられているような状態
5:身体的にも精神的にも痛みの感覚が鈍麻したりなくなったりすること

トラウマによる人格変化に関して、特に目立つ症状は「解離」です。


参考文献:アダルト・チルドレンと家族 斉藤学