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S子さんは二人兄妹ですが、このお兄さんが世間で言う「問題児」でしょっちゅうお父さんに叩かれていたのでS子さんんは、自分はどうしたら叩かれない「いい子」でいられるか、そればかりかんがえていました。
このお父さんは、妻の事も大声で怒鳴ったりひっぱたいたりするので、S子さんには「かわいそうなお母さんを守らなくては」という気持ちがずいぶん強くあって、お母さんが幸せに思えるような状態に自分を置く事が彼女にとっての大きな仕事でした。
ですからお母さんの手を煩わせたり、気持ちを混乱させるような事は一切しないで来ました。
お母さんのほうが彼女にとってケアの対象になっていたのです。

このようにして育っているうちに、お母さんが喜ぶかどうかだけを考える習慣が、彼女のみについてしまいます。
ボーイフレンドをお母さんに紹介する場合も、「この人だったらお母さんがいい人だと言ってくれるかしら」などという考え方をしてきて、外見も収入も学歴も、それなりにお母さんが喜ぶような人と一緒になります。

けれどいざ結婚して夫婦関係を続けていてもなんとなく本当の妻になった気がしない。
この辺の自分の感情が夫をいらだたせた原因なのではとS子さんは最近になって思うようになりました。

やがて長女が生まれますが、自分の気持ちの中では「いい夫とかわいい子供に恵まれて幸せそうな私」というふうにお母さんの目に映っているかどうか、そんなことばかりが気になっていますから、生まれた娘がもう本当にかわいくて、この子を一生育てよう……という喜びに満たされた状態ではない。
むしろ、赤ん坊が欲望のままに動くのをみていると、自分が与えられずに来た「子供時代」を感じて嫉妬がわいてきます。

「自分と比べてこの子は思う存分、自分のしたいようにできる。私が子供の頃はお母さんのために『いいこ』を演じる事しか許されなかったのに」
こう思っているのですが、このような嫉妬の感情は自分では理解できませんから、「なんだか知らないけれど、このことは相性が悪い」という事になるわけです。


参考文献:斉藤学公演集<Ⅲ>心の傷の癒しと成長