解離性同一性障害の人格統合を目指す場合(前編)

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解離性同一性障害には確立した治療方法はありません。
アメリカで試験的に試されている回復を目指すための心理療法の進めについてまとめました。

※情報が古いため最新の情報・手法がある可能性があります。


 

■治療の出発点

治療の出発点は、治療者と患者がDID(解離性同一性障害)を受け入れることで始まります。
どちらかが認めないと、治療は始まりません。
特に、治療者がDIDを否定する場合、治療は絶対に始まらない。
アメリカでは、DIDの治療者としての資格は、「DIDを信じている」ことが条件となっています。


■一連の流れ―不安や恐怖とどうつきあうか

治療の目的は人格統合です。
人格統合にはさまざまなやり方があり、一定していません。
服部雄一氏は人格統合を四つの項目に分け、ステップを設けて取り組んでいるそうです。

経験によると、治療でもっとも犯しやすい過ちは、セラピストが患者の状態を軽視して、自分の目標、テーマを一途に追求する事。
患者の不安や恐怖を無視して、虐待の記憶を復活させたり、人格同士が争っているのに、人格統合を無理強いすべきではありません。
治療のステップを守ることは、こうした失敗を避けるのに役に立ちます。

一連の流れ

  1. ―――信頼関係の確立
    • 患者の内的世界の理解
  2. ―――交代人格を意識に出すこと
    • 個々の交代人格の理解
    • 交代人格同士の関係の改善
    • 治療契約書の作成
  3. ―――失われた記憶の処理
    • 記憶の欠落チェック
    • 虐待の記憶の処理
    • 虐待体験の再認識
  4. 人格統合
  5. 人格統合後のセラピー

参考文献、「多重人格の真実」の中で、患者の立場からの意見があります。
こちらは特に治療者向けですが、転載いたしますね
私もまったく同意見です。
ただ、今のところ統合へと急いではいませんが。

  1. 解離性同一性障害は治療可能であると最初に説明して欲しい。
  2. 患者の意思を尊重し、交代人格を強制的に意識に出さないで欲しい。
  3. 解離性同一性障害は自然治癒しないと知らせて欲しい
  4. 薬で交代人格が消えることは無いと説明して欲しい
  5. 治療中の途中でポップ・アップ(多数の交代人格が一度に意識に表れて精神錯乱のようになる状態)が起きる可能性があることをあらかじめ説明して欲しい。
  6. ポップ・アップは、一時的な精神錯乱であり、発狂したのではないと説明して欲しい。
  7. その他の多重人格の症状をできる限り患者に説明して欲しい。

■A―――信頼関係の確立

多重人格の治療でもっとも重要な事は信頼関係の確立です。
どんなセラピーでも患者がセラピストを信頼していないとうまくいきませんが、解離性同一性障害者の場合は信頼関係が特に大切です。
多くの解離性同一性障害者は人を信頼する能力が育っていません。

多くの患者が成長期に虐待されたために、人間に対する信頼が欠けています。
「誰も自分を助けてくれない」と「こいつに気を許すとやられる」は、彼らに共通する心理です。
そんな彼らは信頼関係を築くことの恐れと渇望があり、人の顔色をすばやく読み、相手を試そうとします。
セラピストは自分が絶えず試されている事を知るべきです。

治療の失敗例のほとんどは患者との信頼関係を築けないことであります。
ドロップアウトした患者たちは何かの理由でセラピストを信頼しなくなり、治療を途中でやめてしまったケースが多いのです。

信頼を得るポイントとは、セラピストが患者の内的世界を理解できるかにかかっていました。
解離性同一性障害者は人に理解してもらえない体験を何度もしています。
特殊な世界に住み、別の人格に傷つけられる不安や、気づかないうちに人を傷つける恐怖におびえています。

また、虐待体験を理解してもらいたい反面、他人にそれを否定される不安も強いのです。
いつも誰かに見られているような感覚は、普通の人にはわかってもらえません。
セラピストはそうした内的体験を否定せずに、支持的に理解する事が大切です。

↑上記は、セラピストに限らず、解離性障害の方と身近に過ごす方々にもとってもらいたい態度ですね。
彼女または彼の世界を否定せず、受け入れて、抱きしめてあげてください。
治療を「統合」として話が進んでいますが、統合以外にも「共存」という方法があることをまた後日お話いたします。
主治医とお話してからね^-^

そのやり方はクライアント中心療法(来談者中心療法)と同じです。


■B―――交代人格を意識に出すこと

セラピストは隠れた人格を常に意識する必要があります。
解離性同一性障害者は複数の意識があり、セラピストが交代人格と話している間、その背後で話を聞いている別の人格がいます。
マジックミラーの背後で誰かが見ているのと同じです。
解離性同一性障害の場合は、そのマジックミラーがたくさんあり、セラピストの知らない人格たちがこちらを見ています。
隠れた人格たちは別の意見を持っていたり、セラピストに敵意を抱いている場合さえあります。
したがって、ある交代人格だけを特別扱いするのは禁物です。
それは彼らの反感を買うことになりません。

セラピーは民主主義が基本であり、「みんなの意見を聞きたい」、「他に意見のある人は出てきて欲しい」と隠れた交代人格に呼びかけるのは大切なテクニックです。
精神科医の安克昌氏と金田幸広氏は次のように述べています。

「常に別の交代人格が臨床家の発言に耳を傾けている可能性を忘れてはなりません。
いまだに出現していない人格が聞いているかもしれないのですから。
ある交代人格にだけ秘密を持ったりしてはなりません。
それは、交代人格間の葛藤を引き起こし、患者との信頼関係をそこなうことになります…
交代人格は全体としてひとつの人格システムをなしているのだから、
すべての交代人格がひとつになって初めて全体の人格として統合されることになる」

新しく見つかった交代人格たちは孤立している場合が多いのです。
彼らは他の人格を実際以上に危険な人物だとか、あくどい人物と恐れています。
または、その逆に、他の人格たちから必要以上に悪い人物と思われています。
こうした人格たちを意識に出すのは交代人格の孤立と誤解を解消する意味がありました。

交代人格が出現し、セラピストとの会話を他の人格たちも聞ける場合は、それは交代人格同士の理解を深め、関係の改善にも繋がります。
その意味でセラピストの役割は交代人格同士のコミュニケーションをスムーズにする仲介者でもあったのです。

交代人格を見つけたら、人格としての特徴、年齢、役割、個人歴史を調べる必要があります。
交代人格は何かのきっかけとして生まれており、それが役割となっています。
たとえば、性的虐待から生まれた人格はセックスを楽しんで、性的虐待の苦痛を最小限にする役割があります。
セックスを積極的に受け入れて虐待者の身体的虐待を最小限にするのだが、そういう人格は派手で男好きのする人格であります。
また、虐待の記憶を抱えた人格が一人で苦痛と怒りを抱えている場合があります。
そうした人格は虐待体験を他の人格に知らせない役割を果たすが、同時に怒りのために暴力の危険さえあるのです。

セラピストは交代人格たちの関係を改善する必要があります。
ある人格たちはお互いに敵同士で、別の人格たちは同盟関係にある。
道徳観念の強い人格は、だらしない、浪費家の人格を憎むし、楽天家の人格は細かい事にうるさい人格を嫌う。
解離性同一性障害者の心の中はこうした交代人格たちがひとつの世界を構成しており、人間社会と同じような確執があるのです。
セラピストは交代人格たちの関係を理解して、いがみ合いを改善しなければならなりません。

人格統合のためにはできるだけ多くの交代人格を意識に出すべきです。
表に出てくる人格だけの話を聞くのは、隠れた交代人格を無視することになります。
これは「えこひいき」につながるばかりでなく、セラピストへの敵意を育てる場合もああります。

表に出てくる交代人格が善良で、協力的な連中ばかりだと注意が必要です。
多重人格はふつうセラピストに反対する人格や激しい怒りの人格が存在します。
一人一人の人格の信頼は、別の人格の不振と憎悪の意味ともなりえます。
セラピストが、「私はすべての人たちと話しがしたい」、あるいは「話をしたい人は出てきて欲しい」と呼びかけるのは大切です。
これは隠れた人格たちにとって、セラピストが交代人格を公平に扱う姿勢を見せることになるのですから。


■―――治療契約書

ある程度の交代人格が現れると治療契約書の作成が必要になります。
治療契約書は非常に重要な役割を果たします。
これは、自殺未遂や他人を傷つけるのを防ぐセラピストの武器です。

以下は著者(服部雄一氏)の契約書である。
これは安全な治療環境をつくることが目的であり、「1」患者の安全をも守ること、「2」セラピストを含む外部の人たちの安全を守ること、「3」セラピストの生活に介入しないこと、「4」他の人格の所有物を破壊しないこと、「5」セラピストの財産と所有物を破壊しないことの5項目が強調されている。
(治療の初期の段階では、とりあえず患者とセラピストを守るために、著者は人格統合の項目を抜かして契約している。)

いい例になると思いますので、転載いたします^-^
それから、本文中の相手側はWXとなっていたのだけれど、わかりにくいと判断しましたのでAに変えて転載しています。


治療契約書

この契約書は、Aおよび彼女と体を共有する人格すべて(以下Aと呼ぶ)と服部雄一(以下セラピストと呼ぶ)との間で取り交わすものであり、平成○年○月○日から○ヶ月間有効とする。それ以降の契約は、Aとセラピストの協議の上で更新する。

  1. Aは、いかなる場合も、事故や偶然の出来事と見える場合も含めて、自分自身と内部のほかの人格を傷つけたり、殺しません。
  2. Aは、いかなる場合も、事故や偶然の出来事と見える場合も含めて、セラピストを含む外部の人たちを傷つけたり、殺しません。
  3. 人格統合がセラピーの目的です。この目的のためにすべての人格が民主的に話し合い、お互いに協力して、生活を運営します。
  4. Aは内部の人格の所有物を尊重し、勝手に使ったり、盗んだり、壊したりしません。この規則は、外部の人たちの所有物にも当てはまります。
  5. Aはセラピストの私生活を尊重し、彼の生活領域内に入り込まないこと。
  6. 緊急の場合を除き、真夜中、早朝など社会常識に反する時間に電話をかけないこと。
  7. Aが以上の契約を守る限り、セラピストはAの人格統合のセラピーに最善の努力を継続します。
  8. Aが契約を守らない場合、セラピストは治療を途中で打ち切り、それ以後の接触を拒否することができます。

Aは上記の契約のすべてに同意し、これを誠実に守ることを誓います。
その証として、契約日を記入後、Aと彼女の体を共有する人格の全員が以下にサインします。
この契約はまだ出現していない、隠れた人格たちが存在する場合、彼らにも適用されます。
名前の欄が足りない場合は、空白部、裏にも書くこと。


契約にはできるだけ多くの交代人格がサインする必要があると考えられています。
交代人格全員に守らせるためです。
ある患者の場合は、最初の契約には6人格がサインし、2回目には11人格がサインしました。
新しい交代人格が増えたときには契約書を更新しています。

契約書には予想できない破壊行動(自殺未遂や自傷行動)を防いだり、他人を傷つけるのを防ぐために役に立ちます。
それを「悪いこと」と定めるからです。
これは患者の利益になるので、大部分の人格たちは守ろうとします。

しかし、反発する人格もいるし、隠れた交代人格が現れると守ろうとしない時もあります。
そのために、「この契約はまだ出現していない、隠れた人格たちが存在する場合、彼らにも適用されます。」の項目が加えられているのです。

フランク・W・パトナムは契約書の作成について、以下のように述べています。
「私が人格システム
(交代人格たちをひとまとめにして人格システムと呼びます。人格システムは、健常者の人格に当たります)
と契約する場合、できるだけ多くの人格たちに参加してもらい、契約内容について話し合いをします。
すべての人格を一名ずつ招待して、交渉しながら契約書を作成するのです。
お互いに納得のいく契約ができると、もう一度彼らに出てきてもらって、契約内容を再検討します。
交渉に参加しない隠れた人格については、セラピストと人格システムに対して契約を守る義務があると、契約書に明記しておきます」

いかがでしたか、治療の流れ、前半。
はぁ、疲れた。(笑)
治療の方法は、PTSDの方向から見ても、あることはあるんですよ。
最終的な目標を統合において、
今から交代人格同士の関係を円滑にするためのコミュニケーションをとってみても遅くないと思います。
これらは治療に関わる医師にはもちろん、家族などのDID患者の方と過ごす時間が長い方にも読んでもらいたいと思います。
この出典元の「多重人格者の真実」は友人からもらった本ですが、とてもよくできた本だと思います。
もし余裕があったら、身近な書店で取り寄せて、(取り寄せがまだできる状態かはわかりませんが)この本を全部読んでみてください。
わかりやすくて、本当にいい本です^-^


関連文献:治療のガイドライン(統合の場合)
治療の進め方(統合の場合:後編)


参考文献:多重人格者の真実 服部雄一
Special Thanks :inyotti