統合を目指す場合

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一人の人格として統合を目指す場合の治療のガイドラインを整理しました。


■心理問題

最近の研究では、トラウマの被害者―PTSD(心的外傷後ストレス性障害) >>詳しくはこちら
に苦しむベトナムの帰還兵や児童虐待の被害者たち―は健常者と比べて脳の海馬(↓図、赤四角)が小さいことが発見されています。
海馬は記憶の処理に関係しており、これの萎縮は、トラウマの記憶喪失(解離性健忘)に関与していると思われています。

もしトラウマで海馬が萎縮するのならば、トラウマの生理学的な証拠になり得るので、近い将来、裁判などで、海馬の萎縮をトラウマの証拠に使えると期待する専門家もいます。

しかし、現在の段階では、多重人格は脳の異常から発生する病気ではないと考えられています。
海馬の縮小はトラウマの結果であり、原因ではないのです。

それゆえに、解離性同一性障害は、PTSDと同じく、薬物や外科手術で治す病気ではないと考えられています。
解離性同一性障害の研究が進んだあめりかでは、治療者は薬物を補助的にしか使わないし、脳外科手術もしません。

解離性同一性障害をコンピューターに例えれば、ハードウェア(脳)の問題でなく、ソフトウェア(心理)の問題となります。
ソフトウェアを治すのは機械をいじるのではなく、プログラムを修正する事になります。


■国際解離研究学会のガイドラインまとめ

解離性同一性障害の治療の中心は、サイコセラピーです。
サイコセラピーは日本語では、精神療法や、心理療法と訳されますが、それはカウンセリングと同じです。

心理療法の本質は、「問題を話して解決する」ことになります。
話すことにより、本人が自分の問題を認識し、解決の道を見つけるのが基本です。
伝統的なサイコセラピーには、フロイトの精神分析、行動療法、人間性心理学派のセラピーがあります。
しかし、行動療法はほとんど使われません。
特に、罰を与える行動療法は、虐待の被害者である解離性同一性障害者には逆効果であると報告されています。

心理療法では、自分でも気づかない感情、考えを意識に持ってきたり、誤った思い込みを直したりします。
しかし、こうした伝統的なセラピーは、一つの人格を持つ人たちのためであり、複数の人格状態を持つ解離性同一性障害には必ずしも向いていません。

こうした状況を踏まえて、国際解離研究学会(International Society for the Study of Dissociation)は、解離性同一性障害の治療ガイドを発行しています。
以下は主なガイドラインをまとめたものです。

  1. ――――治療の目的は人格統合である。治療の際は以下の点に注意すること。
    • 患者に一人の人間であるという意識を育てること。
    • セラピストはすべての人格を尊重し、特定の人格をえこひいきせず、好ましくない人格を仲間はずれにしないこと。
    • 患者は交代人格の行動すべてに責任を取るべきである。
  2. ――――治療は外来と入院の二種類がある。
    • 治療は外来形式がもっとも望ましい
    • 外来の場合、週二回を目安とし、一度に90分を越えないようにする。
    • 治療は一対一のサイコセラピーが望ましい。グループセラピーは、その効用が治療者の間で意見の一致が無く、主要な治療ではない
    • 長時間の治療を継続して、患者に依存性を育てないこと。
    • 患者がセラピストの私生活に入り込んだり、必要以上の依存関係をつくらないこと。
    • 入院はふつう、緊急のときに必要である。長期の入院は患者の依存性を高めるので好ましくない。
    • セラピストは患者の独立を促進すべきである。
  3. ――――医学的治療
    • 電気ショック療法はふつう、解離性障害に効果は無い。ただし、うつ病から回復させるには大切かもしれない。
    • 脳外科手術を解離性同一性障害患者に適用するべきではない。
    • 薬物療法は補助的な治療法である。
    • 薬物治療の場合、セラピストは薬は実験的であると患者に説明すること。
    • 薬物治療をするセラピストは、同じ薬が交代人格によって別の反応と副作用を生む事を理解していること。

■日本人にふさわしい方法は?

治療では、フランク・W・パトナムとコリン・ロスの著書が有名であり、治療に役立つ知識が豊富に記述されている。
以下はコリン・ロスがまとめたセラピーの方針である。

  • 治療者による解離性同一性障害の診断の確立。
  • 解離性障害を患者に通知し、交代人格たちと話し合うこと。
  • 人格統一を目標とすることを説明すること。
  • 人格システムの構造図を作ること。
  • 交代人格の記憶喪失の壁を壊すこと。
  • 抑圧された感情を解放すること(アブリアクション)。
  • 交代人格たちのとの交渉。
  • 契約書の作成。
  • 交代人格たちに迫害者の人格を受け入れるように説得すること。
  • 催眠療法。
  • 患者やセラピストに危険な場合は身体的拘束が必要な事を説明すること。

 しかしながら、これが日本人患者にどの程度当てはまるのかまだ不明です。
症例の少ない日本では、日本人患者の特徴がまだわかっていないし、解離性同一性障害の治療にどのように反応するかわからないとされています。
結局、日本の治療者はこれからしばらくの間は手探りで患者を治療する事になるでしょう。


関連文献:治療の進め方(統合の場合/~契約するまで)
治療の進め方(統合の場合/~統合後のセラピーまで)


参考文献:多重人格者の真実 服部雄一
Special Thanks :inyotti