心的外傷体験との関与が直接的なものを説明します。

◆PTSD、ASD

言うまでもなく、外傷と深い関係があります。理論的には症例の100%に深刻な外傷体験が見られることになります。DSMでは一貫して、PTSDの診断基準を満たすような外傷は、客観的に極めて深刻なものとして定義されます。例えば、症状がPTSDと酷似していても、外傷自体が客観的に見て深刻なものでなければ、それが外傷と直接関係しているとはみなされません。

◆解離性障害

解離性同一性障害を含む解離性障害一般についてもその外傷との関係が多く論じられています。しかし、軽度の解離体験は直接外傷の経験を持つことなく生じる可能性があるため、解離と外傷との関連性についての議論には注意が必要です。ただし、社会適応に深刻な障害を招くような病的な解離症状が外傷を基盤とすることに関しては、識者の見解はほぼ一致していると見て良いでしょう。
ちなみにここで言う病的な解離症状には、解離性障害に典型的に見られる人格の交代や健忘だけでなく感情や感覚が鈍くなる症状やフラッシュバックなどの主要症状を含むという見方もあります。このように解離と言う概念はいまだ未整理で識者の間でその理解や定義が異なっている点が今後の課題となります。

◆自傷行為

これは障害単体とは言えませんが、幼児期の虐待の既往との深い関連をしめすようなものもあります。ある医師の報告によれば、種々の重篤な自傷行為を示した患者のうち、70%~90%に幼児期の様々な外傷体験が存在したと言います。このうち自殺企図幼児期の虐待を始めとする外傷自傷養育放棄と深い関係を持っていることが見いだされました。
また、興味深い事に、「実際に行動に移す事のない自殺したいと言う気持ち」に関しては、外傷を負った経験とは直接の関係は見出せないそうです。なお、これらの自殺行為や自殺企図は、うつ状態、PTSD、境界性人格障害、解離性同一性障害を始めとする解離と関係のある障害においてきわめて広くかつ頻繁に見出されるのはとてもよく知られたことです。

◆境界性人格障害

境界性人格障害は、Hermanの説においては、「複合型PTSD」に属するものとして捉えられていますが、臨床の場から見れば、境界性人格障害として診断された症例のうち、小児期の外相の既往が見られるものは60%~70%台にとどまっています。なので、境界例を外傷による精神障害だと見ることはできません。ただし、歴史的に見れば境界性人格障害と呼ばれてきたのものの中には、解離性のものや外傷性のものによく似た症例を見つけることができます。
この障害を持つ患者の三分の一がPTSDである事、被虐待の経験はこの障害になるには直接の関係は持ちませんが、被虐待の経験がそのほかの因子と一緒になることによって、境界性人格障害を発症するのではという説が有力です。

◆身体化障害

身体化障害の多くにも、外傷との関係を見つけられるものがあります。そこには、外傷体験が通常の仕方で記憶されることなく、むしろ身体レベルで保存され、それが身体化症状の形で再現されると見られています。あるアメリカの医師は、身体化障害の55%に小児期の性的虐待を見出したと言っています。またある別の医師は、PTSDに非常に多くの頭痛が見られる点を指摘しています。また、女性の下腹部痛が小児期の性的虐待の犠牲者に多く見られるという報告もあります。

◆うつ病、うつ状態

長く続くうつ状態は、慢性的な外傷による反応として、最も頻繁に見られるとされています。もちろんうつ状態になるためには、他の要因がからんでいるため、これと外傷との直接な関係をお話しすることはできません。しかし、うつ病には、小児期における外傷的な体験が後の発症に関わるのではないかという仮説も示されています。

◆パニック障害

様々な研究が、この障害と外傷との関係を示しています。バージニア双子研究は、この障害が、成人になる前の両親(特に母親)の死や別離と深く関連している点を見出し、また別の研究は、パニック障害の発症に先立つストレス要因の存在を見出しました。パニック障害の症状が、PTSDにおけるフラッシュバックと似ている点、そして両者とも乳酸の注入や二酸化炭素吸引により引き起こされやすい事を考え合わせると、パニック障害は、無意識の外傷的心理から起こされた一種のフラッシュバックではないかとの仮説も成り立ちます。ただし、この障害に関しては、外傷という環境以外にも、遺伝的・体質によるのではないかという点も注目されている事を忘れてはいけません。

◆摂食障害

これについても外傷との関係が見つかっています。ある医師によれば、84人の解離性障害の患者のうち77人に、何らかの食行動異常が見られたそうです。また、別の医師は特に思春期に体験された虐待と深い関連を示す点を指摘しています。

◆強迫神経症、または強迫性人格障害

強迫的な反復動作、ないし思考を象徴とする障害は、フロイトが疑った外傷を作った状況の反復強迫との関連を示唆しています。これまでにも、幼児期における外傷的な状況をこの障害の原因として述べたものはいくつかあります。ある医師の報告でも、強迫性神経症では幼少時における愛情やケア不測による自己愛の病理がその代償として、完ぺき主義・知性化・反動形成などの症状を生むとしています。ただす強迫症状には、そこに生来の攻撃性の要素が必要という考え方もあり、これと外傷との関係を一般化して論じる事はできません。


参考文献:「精神科治療学」選定論文集<心的外傷/多重人格>論文集